◆パレオ協会ニュースレター◆ 『胃酸の減少が慢性病を引き起こす〜その一』


胸焼けや胸痛などを引き起こす加齢病として、逆流性食道炎(gastroesophageal reflux disease (GERD))が世界的にも増加傾向にあります(Global, regional and national burden of gastroesophageal reflux disease, 1990–2019: update from the GBD 2019 study. Ann Med. 2022; 54(1): 1372–1384)。この逆流性食道炎(GERD)と呼ばれる病態は、現代医学において胃酸が食道に逆流することが原因とされています。そのため、胃酸の産生をブロックする医薬品が市場で売り上げを伸ばしています。

その代表が、H2ブロッカー(histamine-2 receptor antagonists)あるいはプロトン・ポンプ阻害剤(proton-pump inhibitors, PPI)と呼ばれる薬です。さて、胃酸の産生を抑えるとどうなるでしょうか?

ここで胃酸の主な役割について整理しておきましょう(Gastric secretion. Curr Opin Gastroenterol. 2014 Nov;30(6):578-82)。

・タンパク質の分解・消化
・抗菌作用(食中毒防止)
・ミネラル・ビタミンの吸収

このどれかが障害されても、甚大な影響が出ます。タンパク質は、胃でペプチドレベル(アミノ酸の連結)に分解されます。胃酸がなければ、タンパク質が分解されないまま小腸に向かいます。ここで現代人のようにリーキーガットやSIBO(小腸細菌異常増殖症)であればどうなるでしょうか?

リーキーガットがあれば、未消化のタンパク質が血液中に入ることになります。ここで問題が起こるのは、食品中あるいは消化過程で発生した過酸化脂質が結合したタンパク質(ALEs)がそのまま血液中に入ることが全身の炎症(リーキーガットと関連する病態:炎症性腸炎、過敏性腸炎、脂肪肝、肥満、糖尿病、慢性心不全など(Leaky Gut and the Ingredients That Help Treat It: A Review. Molecules. 2023 Jan; 28(2): 619))を引き起こすことです。なぜならALEsは、極めて消化・分解が困難な変性タンパク質だからです(Digestibility of Malondialdehyde-Induced Dietary Advanced Lipoxidation End Products and Their Effects on Hepatic Lipid Accumulation in Mice. J Agric Food Chem. 2023 Jul 12;71(27):10403-10416)。

従来の免疫学では、食品中のタンパク質が、未消化のまま小腸から吸収されると、それは炎症ゴミ(現代医学では抗原(こうげん)と呼んでいる)になるとしています。そのようなエビデンスはいまだに認められませんが、その未消化のタンパク質が、体内の構成成分のタンパク質と同じある場合、体内を構成するタンパク質にも免疫系が攻撃することが自己免疫疾患を引き起こすという仮説を提唱しています。現代医学は、これを「分子擬態(molecular mimicry)」と呼んでいます。

免疫の基本は、白血球の「お掃除」です(『新・免疫革命』参照)。白血球は自己と非自己を見分けている(これも現代医学の擬人化した想像にすぎない)のではなく、生命場で危険なゴミを掃除するのが役割です。私たちの体を構成するタンパク質を危険なゴミとして掃除することはありません。あくまでも体内で発生した変性タンパク質がゴミ掃除の対象になるだけです。あくまでも、ALEsやエンドトキシンが血液中に入ることで、自己免疫疾患と呼ばれる炎症性疾患が起こるのです。

さて、未消化のタンパク質はバクテリアによっても分解されることになります。大腸の粘膜では、ほとんどアミノ酸は吸収されず、主に増殖したバクテリアによって利用されます。その結果、バクテリアからアンモニア、インドキシル硫酸やポリアミンなどの毒性物質の産生量が増加します(Impact of protein on the composition and metabolism of the human gut microbiota and health. Proc Nutr Soc. 2021 May;80(2):173-185)。これらが血液中に入ると、アンモニアやポリアミンなどの毒性(いずれも糖のエネルギー代謝低下)が出現します。

ポリアミンは、長期保存の食品にも発生するストレス物質です。ポリアミンは、炎症や癌を発生させる作用があることが報告されています(Role of polyamines in the function of nuclear transcription factor NF-kappaB in breast cancer cells. Exp Oncol. 2004 Sep;26(3):221-5)(Polyamine catabolism in carcinogenesis: potential targets for chemotherapy and chemoprevention. Amino Acids. 2014 Mar;46(3):511-9.)(Metabolism and function of polyamines in cancer progression. Cancer Lett. 2021 Oct 28;519:91-104)(Development and validation of polyamines metabolism-associated gene signatures to predict prognosis and immunotherapy response in lung adenocarcinoma. Front Immunol. 2023 Jun 2;14:107095)(Determination of polyamines in urine of normal human and cancer patients by capillary gas chromatography. Biomed Chromatogr. 1990 Mar;4(2):73-7)(ポリアミンのその他の毒性については、メディカルパレオ「タンパク質の真実」参照)。
胃酸に抗菌作用があることも重要です。1885年にロベルト・コッホは、モルモットに重曹(アルカリ化剤)を摂取させると、コレラに容易に罹りやすくなることを実証しました(Influence of gastric acidity on bacterial and parasitic enteric infections. A perspective. Annals of Internal Medicine. 1973;78(2):271–276)。後年、胃酸の酸度が低下するとコレラに罹りやすくなることも示されました(Gastrectomy, achlorhydria and cholera. Israel Journal of Medical Sciences. 1971;7(5):663–667)。実験的に医薬品で胃酸の分泌をブロックすると、コレラの発症頻度および重症化が高まりました(Cannabis, hypochlorhydria, and cholera. The Lancet. 1978;2(8095):859–862)。

2017年の観察研究では、胃酸の分泌を抑える医薬品(H2ブロッカーあるいはプロトン・ポンプ阻害剤(PPI))を投与しているグループでは、服用していないグループよりも4〜5倍カンピロバクターによる食中毒や偽膜性腸炎(抗生剤抵抗性のクロストリジウム・デフィシール菌によって発症)になりやすいことが分かりました(Acid‐suppression medications and bacterial gastroenteritis: a population‐based cohort study. Br J Clin Pharmacol. 2017 Jun; 83(6): 1298–1308)。

偽膜性腸炎は、抗生物質を多用する病院において起こる日和見感染です。下痢、発熱、腹痛をもたらしますが、重症例では下痢便に血液が混じります。私自身も数例経験したことがあります。この腸炎の原因となるクロストリジウム・デフィシール菌には抗生物質が効果を示さないため、現代医療はお手上げ状態です。2020年の観察研究では、このクロストリジウム・デフィシール菌感染は、H2ブロッカーよりもプロトン・ポンプ阻害剤(PPI)を投与している人たちに発症しやすいことも明らかにされています(Comparative risk of Clostridium difficile infection between proton pump inhibitors and histamine-2 receptor antagonists: A 15-year hospital cohort study using a common data model.J Gastroenterol Hepatol. 2020 Aug;35(8):1325-1330)。
2023年10月14日
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