抗サイトカイン治療について
現代医療の一般的治療法
現在、リウマチ・膠原病の薬物治療最先端は抗サイトカイン治療と呼ばれるものです。
感染症では重症になるほど、全身性に炎症が拡大します。
全身性に炎症が拡大したものを全身性炎症反応症候群(SIRS)といいます。
今まで、バイ菌が全身に廻って死に至る感染症を「敗血症」(ゼプシス:sepsis)と呼んでいました。
しかし、「敗血症」と呼ばれる重症感染症は、実は全身性炎症反応症候群(SIRS)と同じです。
全身性炎症反応症候群(SIRS)では、まず病原菌が体内に侵入します。
これに対して、炎症反応、免疫反応、血液凝固反応などが同時進行で起こります。
この火付け役になるのは白血球が産出する「サイトカイン」とよばれる局所ホルモンです。
特にTNFα(テーエヌエフアルファ)、IL-β(アイエルワンベータ)、IL-6、IL-8などのサイトカインは、サイトカインネットワークを刺激して様々な炎症反応を増幅します。
このサイトカインネットワークの一部を刺激されると一連の炎症反応が自動的に進みます。これをサイトカインストリームとよびます。
抗サイトカイン治療の問題は、たとえば、TNFα(テーエヌエフアルファ)をブロックする医薬品を投与しても、いろいろなストリームがあるため完全に炎症反応を止めることは理論的にも不可能なことが第一にあります。
また、もともとは白血球が外来の異物を捕らえ、消化してしまうために、サイトカインを産出しながら、自分たち(白血球)の力を高めているのです。
サイトカインをブロックしてしまうと異物を除去するという本来の免疫力も低下してしまいます。余計な炎症反応だけを止めて、必要な炎症反応は邪魔しないというような都合のよい治療は不可能です。
したがって、ある特定のサイトカインをターゲットにした薬物療法では、全体の炎症反応を都合よく制御することはできません。
実はリウマチ・膠原病も同じサイトカインストリームによる全身性炎症反応が起こります。
敗血症とリウマチ・膠原病との違いは、
- はっきりとした感染源が検出されるどうか
- 炎症性反応の強さ
です。
リウマチ・膠原病は、敗血症と比べると、
- 感染源がはっきりしない
- 全身性の炎症反応が比較的弱い
ものです。
敗血症のような重症感染症に限らず、リウマチ・膠原病の自発感染症が深く関与している病態でも抗サイトカイン療法は根治療法に程遠い治療です。
生物学的製剤の投与によっても関節リウマチ症状の悪化が認められる症例が多く報告されています。
関節リウマチ(RA)はTh1型(リンパ球の型)、SLEなどの膠原病・自己免疫疾患はTh2型の疾患などとされてきましたが、リウマチ性疾患患者のサイトカイン・プロファイルを調べた新たな研究で、これまでの常識に対応したパターンを必ずしも示さないこと、生物学的製剤の投与後、各種サイトカイン量がむしろ増加することが報告されました(第52回日本リウマチ学会:埼玉医科大学リウマチ膠原病科)。
リウマチ性疾患患者の末梢静脈血を採取して、Th1、Th2、Th17がそれぞれ産生する主なサイトカインであるインターフェロンγ、IL-4、IL-17を定量した結果、リウマチ性疾患全体に対して、ベーチェット病がTh1、Th17優位の分布を、SLEはTh2ではなくTh17優位の分布を示したということです。関節リウマチRAは従来、指摘されていたような明らかなTh1優位は示さなかったという結果も出ています。
詳しく調べていくと、今までの医学常識は非常識になっていく例が多々ありますが、今回の研究結果も関節リウマチで今まで想定されていた病態と違う可能性を示唆しています。
インフリキシマブの投与前後における患者末梢血単核細胞(PBMC)中の各サイトカインの濃度を調べ、健常人と比較したところ、Th1、Th2、Th17が産生するサイトカインはいずれも投与前に比べて投与後には有意に増加していることが報告されています。これらのサイトカインはいずれも投与前には健常人に比べて低く、投与後に増加して健常人のレベルに近づいていたということです。
したがって、現在、関節リウマチの炎症鎮火の切り札として使用されている生物学的製剤は、すべての炎症性サイトカインをブロックするわけではないことが明らかになったということです。そのために、生物学的製剤がまったく効果のない人がいると考えられます。